2014年より、Cervelo S3検討・購入・組み立ておよびそれに纏わるBB周りのウンチクと考察を続け、BBInfiniteを選んで早3年、BBRight他プレスフィット系BBモジュール製品の各社による選択肢も増え、過去記事への随時アップデートだけでは継ぎ接ぎ感が否めなくなってきた。そこで、現時点での情報を再整理し、別記事にしてみたい。少しでも役に立てれば幸い。
Goodbye, HHP-2…But,
2014年末から15年初頭の段階で、理屈や構造において明らかに他社より抜きん出ていたことから当方が一押ししていたBBInfinite社製BBモジュール導入については、安価とは言い難いモジュール本体に加え、高価な専用工具が必要なことから来るイニシャルコストの高さや、作業・メンテナンスの特殊性、更には日本国内における入手性やサポート体制が非常に弱いこと等が問題点として挙げられるかと思うが、安く手軽に試せるならもう少し導入事例が目立つはずで、やはりこれらのネガティブ要素の影響は大きいと感じられる。
とりわけイニシャルコストについては、その約半分がモジュール圧入時にしか使わないHHP-2の価格分で、複数フレームへのBBInfiniteモジュール圧入や金属系フレームのヘッドセット用ワン圧入を今後何度か行う予定があるならまだしも、その対象となる個人は殆どいないだろうと思われるし、BBInfiniteモジュール自体、一度圧入したら、後は内部の6806ベアリングの定期的な交換で、ほぼずっと使えると言っているわけで、初回圧入後の出番は事実上なく、モジュールの圧出及び6806の圧出・圧入時にはそれぞれまた追加で工具が必要と言う状況も合わせて考慮すると、モノは良さそうなのは分かるがちょっとね……で終わるのもしょうがないという所。
ただ、それで選択肢から外すのは惜しい技術・製品である故、HHP-2無しでより安価かつ同等に作業できる方法はないかと、他の工具利用や自作例について過去記事でも取り上げてきたワケだが、海外でも一定数言及があったのか、BBInfinite社から新たな専用工具セットとして、Master Tool Set/MTS1-01-SSが販売開始されている。以下にURLを示す。
Master Tool Set (MTS1-01-SS) for installation, service, and removal
内容的にはこれまでHHP-2の代用として、ネジを切ったシャフトにこれまでと同様のモジュールドライバーやスタンドオフカップをセットし、両側から22mmのソケットやモンキーレンチ等で締め込んで圧入していくというもの。言うなればぴったりサイズ合わせした自作系圧入工具とでも言うべきものであり、セットではこれに加えてベアリング単体圧入時用のインストールドライバー2種(6805/6806用 ※後者はPark ToolのBB-30.3の付属品と同様な感じ)で85ドルという価格設定になっている。 また、25ドル追加で、モジュール圧出時に使用されるエアーハンマーも購入できるようになっている(※別途エアーツール利用に対応したコンプレッサーが必要)。 なお、ベアリング交換時にはモジュール内側からベアリングをポンチ等で叩き出す仕様である。
85ドルという価格設定には、後付け説明としてHHP-2の約半額という謳い文句もあり、同社の意図が感じられることが出来る一方で、依然として割高傾向である部分は否めない。 また、前述の様に22mmに対応したレンチ類が2つ別途必要なことを始めとして、ガレージDIYや自動車・モーターサイクル等の整備を自分で行う文化圏にいる人でなければ、さらなる出費の可能性もある訳で、結論としては、後もう1歩の感が拭えず、以前より少しマシにはなったものの、現段階においてもBBInfiniteのモジュールは商業的な本流にはなりえないなぁと感じている。
ただ、本当に理論面は素晴らしいと思ったし、現在も自身のS3のBBはコイツで調子は上々、ABEC3のベアリングしか入ってないが、回転のストレスの無さは下手なセラミックベアリングより遥かにマシな為、今後も経年変化やメンテナンス等については取り上げていきたいと考えている。
圧入と締め込みを組み合わせた新たな潮流
では、何が本流となったのか。
2017年7月現在、BBRightに対応かつ左右からの個別圧入式以外のリプレース用BBモジュール市場においては、実は一定の利用者と評価を得られている製品「群」が存在する。 敢えて「群」と呼んだのは、それらのインストール方式が非常によく似ている点にある。 それは過去記事でもBBInfinite社製モジュールとの比較対象として取り上げており、WheelsMFGこと、Wheels Manufacturing inc.社製の製品の様な、プレスフィットとスレッド締め込みによる左右結合を併用するタイプで、必要工具や圧入ツールの必要性に違いはあれど、Wishbone社のBBRight対応製品や、Rotorの新型4630等も同様のアプローチであり、昨年あたりから選択肢が一気に充実してきている。 以下に、それぞれのURLを記す。
http://wheelsmfg.com/bottom-brackets/bbright/bbright-out-bottom-brackets.html
※米国Wheels Manufacuring inc.のBBRight対応製品群。30mmクランク用がPF30 Threadedシリーズ、24mmクランク用がOUTBOARDシリーズで、ベアリング種類が他社にはないACBを含む3グレード設定。工具は圧入工具と締め込み工具共に必要。なお、24mmクランク対応にカンパは含まれない。
https://www.corridore.co.jp/menu/c327434
https://www.corridore.co.jp/menu/c327439
※台湾Wishbone社の日本国内代理店、株式会社コリドーレのBBRight対応製品群。一般的なBBRight(46mmシェル)は上のリンク。下のリンクはRCaの様な42mmシェル向け。24mmクランク用が主なラインアップで、30mm用はBB386用BB386Fを流用すると共に、推奨クランクはRotor 3DFとFSA BB386 EVOのみとなっているため注意。ベアリンググレード差はなくセラミックのみ。工具は締め込み工具(WB-WRENCH-004)のみ必要。カンパ対応形式が豊富なのも特徴。
http://www.diatechproducts.com/rotor/4630bbright.html
※スペインRotor社の日本国内代理店、ダイアテック株式会社の新製品ページ。以前の4630 PF30や4624 PF30はオーソドックスな左右個別圧入であったが、4630の新型(4630 BBRight)ではスレッドが付いて左右結合型となった。なお、4624は2017年7月現在新型は出ていないことや、購入時の新旧間違いや、メーカーの性格上推奨クランクは同社のクランクのみに限られることに注意。ベアリンググレードは2種類、必要工具については未確認。
Wheels MFG社以外の製品については、国内代理店による取扱店舗の多さやサポートも受けやすいものが多いこと、専用工具が必要な点はBBInfiniteと変わらないが、圧倒的に安価であること等もあり、あっという間にこちらが本流になってきている様だ。
以上の状況を踏まえると、各社のプレスフィット系BBシェルに対する最適解は、圧入と左右結合の併用によりクランク軸の精度と土台としての安定性を高めることが回転性能向上と異音発生防止に効果的であるという見解が一致した結果の表れではないかとも思われ、故に実現構造は違っているものの、BBInfinite社の掲げた理想は間違っていなかったとも理解できるし、これらの製品リリースとラインナップ充実に繋がっているのではないかと考える。
“Better” for BBRight
このことから、改めて2017年7月現在、BBRight用BBモジュールで検討の価値がある製品としては、自身の使用しているBBInfiniteに加えて、Wheels MFG、Wishbone、そしてRotor BBRight 4630(新型)のいずれかということになるのではないかと思う。組み合わせるBBシェル(42mm/46mm)やクランク軸寸法(24mm系/30mm系)も影響するし、イニシャルコストや整備性、長期使用時の問題発生の可能性等もあって、この中でただ一つだけベストというのはなかなか決めづらいが、標準的なPF30BBモジュールや初期のBBRight対応各社製品群と比較すれば明らかにベターではあると言える。
何れにせよ、コストや組付けの安定性、メンテナンスのやりやすさ等から、結局24mm系クランク+BSA/ITA規格スレッド式BBに回帰していくメーカーも有る中、かつて鳴り物入りで登場したはずのBB30やPF30系規格フレームにおける数年前までの不遇さと比べれば、これらに対する改善は進んできており、BBRightにおいても、出来ればこの記事で取り上げた選択肢で概ね間違い無しとなれば良いなと思っている。
BBのことはもう話さねぇよ(希望)
まぁ、そうは言ったものの、自転車を自分で整備し続ける限りBBの事は避けて通れそうにないが、かと言ってBB周りでネガティブなネタばっかり書くのもどうかと。 そんなとこから引っ張り出してきたのが、記事タイトルの元ネタであるVal Halenのデビューアルバム内の1曲。 Van Halenと言うと音作りも含めて1980年代以降のイメージだが、実は1978年デビューというのも感慨深く、影やしっとり感のある王道系ブリティッシュ・ロックや、当時絶頂にあったパンクムーブメントとも明らかに違う存在。 もう少しすると、電子楽器の発展もあってニューウェーブやエレポップが台頭してくるが、それらとも違い、西海岸の太陽の下でカラッと抜けきったアメリカン・パーティ・ロック。 ここから82年、MJの”Beat It”のソロパートで広く知られることになった独特のギターや、84年の”JUMP”、”Panama”他を収録したアルバム”1984″で大ブレイクを果たす所に繋がっていく源流となっていった。 同アルバムでは特にA面頭の”Runnin’ with the Devil”から徐々にヒートアップして4曲目、この”Ain’t Talkin’ ‘Bout Love”に至る流れが素晴らしい……と書いてはみたものの、もはやA面という用語が若い世代の人に伝わらなくなってるワケで、おっさん化要素にまた一つ気づいてしまい、軽くブルーになる……。
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