NOTICE:Some Screen Shots and Pictures Used with Permission by BBInfinite.com, Do not Re-Use.
※この記事はエラいこと長くなった為、記事分割・加筆修正の上、改めてBBRightかつ30mm軸クランク対応BBとして購入したBBInfinite社のBBモジュールについてのみ記述する。 なお、24mm系軸クランクを使う予定でここへ辿り着いた方におかれては、分割された別記事も合わせて参考に。まぁこれでも長い……。
BBRight/30mm軸クランク対応BBの決定版とその特徴
さて、わざわざ別記事に分けるほどの量となった、事前調査とその副産物に於ける紆余曲折を経て、Cervelo S3フレームに組み合わせる30mm軸クランク対応BBモジュールの決定版ではないかと思われるものへと辿り着いた。それは、2014年5月にクラウドファンディングサイトであるKickstarterに登場した、米国BBInfinite社のBBモジュール。 同社WebサイトやYoutubeでの公式動画等で詳細を確認したところ、やや金額は張るものの、別記事で触れていた、良いBBモジュールを選択する上での根拠となりそうなポイントを抑えておりかつ同社の考える独自の運用思想に目が止まった。 主な注目ポイントは以下の3点。
a. BBRightで30mm軸クランクを使用する上での、唯一のワンピース型”金属スリーブ”ベースのモジュールであり、左右ベアリングをBBRightの79mm幅に合わせた一本の金属スリーブに直接圧入し、シム・Oリングといった寸法合わせの「詰め物」の類を介さずBBシェルに圧入かつThread Lockerによるほぼ接着にてフレームと一体化する。 これにより、ベアリングからスリーブまでが全て金属で構成され、とりわけ樹脂カップで起こりがちな、圧入による樹脂部の変形が内部のベアリングを圧迫する現象が発生せず、組み付けに際しての不確かな要素が減ると共に、左右ベアリングが同じ土台に固定されることで得られる軸受としてのしっかり感は、圧入かネジかの違いはあれど、スレッド式BBのあり方により近くなると言える。
b. 上記aにも関連するが、個別圧入かつ左右結合の無い、あるいは弱いモジュールと違い、左右ベアリングのインナーレース同士の間には、内側からそれらを支える役目も果たすインナースリーブがあり、軸方向よりかかる力(クランクの玉当たりでの締め込みやペダリングからの入力)によって発生する、インナーレースが軸方向へズレようとする動きを抑え、ボールとレース間での軋み(≒異音の一つ)発生を防ぐと共に、ベアリング本来の回転性能や左右軸の並行精度の高さを期待できる。
c. 一般的なPressfitタイプのBBモジュールと違い、通常のメンテナンスは消耗品であるベアリングのみの交換で対応でき、その度にスリーブ再圧入等をする必要が無い為、フレーム側シェルへの負担をかけにくい仕様になっている。つまりモジュール本体は使い捨てではないし、必要があれば外すことも可能。また、ベアリングは汎用的な6806-2RSを使用しており、日本国内でも補修部品が入手しやすい。
以下に、ポイントabでのメリットを裏付ける、BBInfinite公式の動画からのスクリーンショットをいくつか掲載する。
※これらのスクリーンショットは同社の公式動画からのもので、同社の許諾を得た上で掲載している。 よって、許可無き再転載はされない様願いたい。 英語音声は苦手という人もいるかもしれないが、動画では更にクランク回転時の変形や影響のシミュレーションを、動きとして見ることができるので、見るだけでもPressfitタイプのデメリットと、このモジュールのメリットは充分伝わると思う。以下にURLを記す。
http://www.youtube.com/watch?v=I_bkdbJsLr4
気になる価格は、ノーマルベアリングタイプで$150(2016年2月現在)。 スリーブのアルマイト色は黒又は赤から選べ、セラミックベアリングは$55追加となる。 日本への送料は別途$15で、決済にはPaypalアカウントが必要。
追記:2015年7月中旬現在在庫分に限りノーマルベアリングタイプ$125、セラミックタイプは$200でセール中。しかもベアリンググレードもアップデート(ABEC-3から5となり、ついに7になった)された上に、ノーマルベアリングタイプは2015年初頭より$15安くなった。
表面上の金額だけ見ると、Steelベアリング採用の一般的なPressfitタイプBBモジュールの3~5倍の価格なことから、イニシャルコストの高さで二の足を踏みそうになるが、前述のポイントcでも述べた、このモジュールの特徴を今一度確認した上で、冷静に比較すべきである。それは、
・回転がダメになったら、ベアリングだけ交換すればいいじゃんという設計思想と、それを前提にしたシンプルな構造とそれ故の耐久性
・ベアリング交換時も、入手性が高く価格も手頃な6806を使える他、セラミックベアリングへのアップグレードも可能
・必要工具と推奨手順を踏まえて作業を行えば、例えThread Lockerによってフレームと一蓮托生であるかのようにガッチリインストールされたモジュール本体でも、フレームにダメージを与えずに脱着した後に再利用することが可能
というように、ベアリングがダメになったらモジュールごと交換となる一般的なBBモジュールと違い、BBInfiniteのモジュールは一度インストールすれば、フレームへのダメージを無駄に増やさず、ベアリングのみを交換しながらの継続運用が可能で、何らかの理由で必要があれば、外して他のフレームへと再利用できる様にもなっており、確かにイニシャルコストは嵩むものの、運用開始以降のメリットやランニングコスト面も含めた比較をすると、延べ期間での価格差は意外と少なくなる。
※……閑話休題……これよりも遥かに、世の中には納得し難い価格差の製品が存在する。例えば最近(EP11/15系)のSuper Record、Chorus各グレードのUltrashift Ergopowerレバーセットの違いは、ほんの少しだけチタンパーツの有無による差別化はあるが、それ以外はレバーの製品名とブレーキレバー正面の穴の有無、それに小さい化粧カーボンが2枚余分に巻き取り側のシフトレバーについてる程度の差でしかなく、基本構造は全く同じで、実質的にも同じ部品多数。それなのに何故か2万円近くも価格差がつくという意味不明なものとなっている。それに比べれば、こっちの価格差の方が遥かに納得がいく。
Pressfit系BBユーザーなら要チェックの多彩なラインナップ
その他、ラインナップについても、24mm系/30mm軸クランク対応共にBBRight専用設計品があり、更には同じく異音問題のありうる他のBB規格への対応も多く、様々な組み合わせでの対応が可能。以下はそのリスト(2016年2月現在:北米市場への対応の為か、SRAM GXPおよびMTB向けのラインアプが大幅に拡大されている)。
・BBRight(BB Width=79mm)
Road 30mm, Road Directfit Shimano/Campagnolo UltraTorque/SRAM GXP
・Specialized/S-Works OSBB(BB Width=62mm)
Road 30mm, Road Directfit Shimano/Campagnolo UltraTorque/SRAM GXP
*for OSBB/MTB(BB Width=73mm) 30mm, Directfit Shimano
・PF30(BB Width=68mm)
Road 30mm, Road Directfit Shimano/Campagnolo UltraTorque/SRAM GXP
*for PF30/MTB(BB Width=73mm) 30mm, Directfit Shimano/SRAM GXP
・BB86(BB Width=86mm, for Approximate 24mm Spindle Only)
Road Directfit Shimano/Campagnolo UltraTorque/SRAM GXP
*for BB92/MTB(BB Width=92mm, for Approximate 24mm Spindle Only) Directfit Shimano/SRAM GXP
・BB386EVO(BB Width=86mm)
Road 30mm, Road Directfit Shimano/Campagnolo UltraTorque/SRAM GXP
・BB30(BB Width=68mm, for Approximate 24mm Spindle Only)
Road Directfit Shimano/Campagnolo UltraTorque/SRAM GXP
*for BB30/MTB(BB Width=73mm, for Approximate 24mm Spindle Only) Directfit Shimano/SRAM GXP
・BB30A(BB Width=73mm, for Approximate 24mm Spindle Only)
Road Directfit Shimano/Campagnolo UltraTorque/SRAM GXP
と、かなりのバリエーションを網羅しており、それぞれが個別専用設計品として販売されている為、Cerveloユーザーではないけど、偶然ここに辿り着いた方にも良い選択肢になりうるのではないかと考える。 また、今回の運用で満足できれば、今後BB規格のせいでフレーム選びに悩まずに済むようになるかもしれないのも地味に楽しみ。
また、肝心の異音問題に対しての見解についても、同社Webサイトや公式Youtube動画での説明において、正しく組めば異音は発生するわけがないし、寧ろ他の何処かが緩んでたり、組み付けが良くなくね?と、断定に近いニュアンスで説明しており、自信を持ってアピールしてこそナンボのアメリカ人のプレゼンテーション故、断定口調は時として差し引いて考えたほうが良いこともあるものの、理屈に関しては素人なりに納得できる点も多かった為、これで行ってみるべと決断した。 参考までに、同社のRoad向け製品一覧URLを以下に記す。
http://www.bbinfinite.com/pages/road
購入から到着まで
そんなこんなでいざ買うとなった後に気になったのは、配送手段がかのUSPSなこと。海外通販利用者にとっては、ネガティブ意見の方が目立つネットの世情とはいえ、USPSの配送については評判のよろしくない話も目にするし、しかも今回の配送方法であるFirst-Class Mailだと、発送受付の確認はできるものの、以後自分の郵便ポストに入るまで、一切音沙汰なしのクラシックスタイル。 まぁ要はホントにタダの小包。 この点については、アップチャージしてでも、トラッキングできたり、配送日数の早い上位オプションや、UPS等他の配送業者への選択肢も今後ご用意いただきたいところではある。
……さて、実際の荷物は無事ロストせずに約21「営業日」で到着。 国際郵便小包として見れば、まぁ普通といえば普通だが、国内は言わずもがな、海外からの購入でも可能な限りトラッキングの出来る宅配便系サービスを利用するスタイルに普段慣れている身にとって、一定金額以上かつトラッキング不可の配送手段の組み合わせは、音信不通期間が2週間を超えてくるとやはりヤキモキ……。
なお、後日談としてウチに届いた後、BBInfinite社の中の人に実際の配送日数報告と将来的な配送オプション追加を進言したところ、「あー、そりゃ確かに遅いわ。今後は検討する。いやマジでマジで。(意訳)」とのことで、今後に期待。 なお、同社とのメールやりとりでは、彼らのBusiness Time外になるはずの時間でも返答をくれたり、ある瞬間ではメッセンジャー並みのスピードでやりとり出来たりで、大変FriendlyかつGentlyであったことも申し添えておく。
そして、2000年代以前からのサイクリスト並びにロードレースファンであれば、何と言ってもUSポスタルと聞いて思い浮かべるはLance Armstrong。 別にUSPSに何かがあるわけではないが、あぁ、オレも大好きだったんだよ、ランス。 届いた小包のラベルを見てちょっとしみじみ……。
届いた箱の中には、スチロールパッキンにくるまれた上の写真の様な商品パッケージが。 まず目を引くのはラベルに燦然と輝くMade in USAと「ABEC-3」の文字。
あれ。オレ頼んだのSK8用のパーツだっけ?とかボケてみるものの、ああ、やっぱりアメリカから来たんだなぁと妙に納得。 ロードバイクのベアリングの良し悪しでは、スチール、セラミック等の素材面やシール・接触面の方式・処理等についてはよく言われるが、ABEC~だから……という話はあまり聞かないかと思う。
ABECはアメリカのローカル的なベアリングの規格の一つで、アメリカを発祥としたり、発展の中心としているスポーツや文化の機材において、しばしばベアリングの精度や良し悪しの基準としてよく語られる。 ABEC-1,3,5,7,9の様に奇数刻みで数字の大きいほうがより精度が高くなる。 んで、このABEC-3は所謂スタンダードな精度で、特筆するようなものではない。
因みに、前述の様にスケートボードやインラインスケートのウィールとかの世界においても、ベアリングは消耗品かつアップグレード品としてアフターパーツマーケットが充実しており、これらを自分でメンテした経験がある人にとってのベアリングは、ブランド名かこのABECの規格でその良し悪しを語られることも多いし、自分もそう思ってしまう。
……閑話休題。
さて、スタンダードなABEC-3ベアリングの他、今回のBBInfinite社製のモジュールにも、他社製品と同様セラミックベアリング仕様のものもあったわけだが、今回導入にあたっての優先度が、異音発生の不安対策としてモジュール本体が本当に有効かどうかという点にあるので、初手から無駄に張り込む必要は無いことと、このベアリングはさして特別なものではないと既に書いたが、BBInfinite公式のYoutube動画において、ABEC-3のモデルでも十分よく回るとデモしており、これについては、ベアリングは普通でも、左右ベアリングの並行や軸がきちんと出ているか等、精度面や剛性についても自信があるというメーカーのメッセージであると受け止め、いずれにしてもブツそのものが本当に良ければ、ベアリングの交換時にまた検討すれば良いさと考え、今回はノーマルタイプにした。
なお、ABEC-3でもこんなに回るぜ的な動画は以下のURLから。
http://www.youtube.com/watch?v=PWuD-O937Qo
ホイールと同じで、無負荷条件での回転性能の有効性……的なところもあるが、よく回るのは気分の悪いものではない。
追記:……とか言ってたら、2015年7月現在、価格はそのままでSteelベアリングタイプはABEC-5へ、セラミックタイプも”Ceramitech”タイプへとそれぞれアップデートされた模様。セラミックタイプはパッと見た感じ、ベアリングレースに加工をしているようだが、詳細が分かり次第、続報を出したいと考えている。
製品開封とチェック
届いた中身は上の写真の通り、赤い金属製の筒がモジュール本体で、左右ベアリング共に圧入済み。 グレーの樹脂パーツ2つはモジュール本体をフレーム側シェルに圧入する際の工具アダプタで、推奨ツールとして指定されているPark ToolのHHP-2と組み合わせて使用※1する。 赤いダストシールは文字通り外部からのゴミ防止用で、その他、30mmクランク系ではお馴染みのクランクの軸長および玉当たり調整用スペーサー並びにウェーブワッシャー一式、そしてカートリッジに詰められているのが、”Blue-Locker”こと、低~中強度のネジ止め剤(≒まぁ言うなればLoctite)。 つまり推奨はスリーブの接着ということになるが、それを使ってがっちり固定しても、別売りされている専用ツール※2を使用することで、必要ならスリーブの取り外しや再利用も可能としている。 そしてマニュアルの紙(これはBBInfinite社のWebサイトからPDFもダウンロード可能)。また、実際の作業動画は以下のURLから見ることが出来る。
http://www.youtube.com/watch?v=DfGtZhqGPoc
※1 自分はこれ保有しているからまだ良いものの、工具単体で実売価格でも2万近くからになるのは、これにしか使わないつもりでお気軽に買えるものではないのは確か。 要は上記の工具アダプタが利用可能で、ずれたり、変形したりしなければ、圧入作業自体は変わらない為、他の安価なBBインストレーションツールでも代用可能かと思われるが、要望があれば、アダプタの接する形状面や寸法等の情報も追記し、情報共有を図りたいと考えるので、お気軽に連絡を。 ただ一方で、HHP-2は工具自体が非常にがっしりしていることもあり、安心して作業を行える(≒変にこじったりせずに力をかけやすかったり、精度の高い作業を行える)というメリットもあるので、そういった部分への負担増に納得するかどうかにもよるかと。 同じような話は、ホイールの振れとり関係の工具や台、HozanのC-200を始めとしたペダルレンチ等にも言えるが……。
※2 恐らくエアー式のインパクトハンマー。 まるでフルオートの銃のトリガーを、指切りでバーストさせるように使用する風景を同社の公式動画で見ることが出来る。 見た当初の感想としては、ハンマーでたたき出すよりは幾分スマートだが……ぐらいに思っていたのだが、BBInfinite社の中の人曰く、この方法を使うことで、ハンマーでガッツンガッツン叩き出すよりも、エアーツールによる細かな振動を効率よく当てた方が、実はフレームへのダメージを与えにくくかつ固着しているThread Lockerを浮かせて、結果モジュールを最も楽に取り外すことが出来るらしく、たしかに圧倒的に短い時間で作業が完了するし、野蛮な印象は受けない。また、これができるからこそモジュールの再利用が可能であることもアピールポイントの一つになっていると説明している。なお、ツール使用時の動画はこちらから。
http://www.youtube.com/watch?v=m1Sunq3Qz-w
上の写真はフレームセット付属のFSA B3155との比較。 見ての通り非常にきれいな仕上げかつ金属スリーブならではの「がっしり」感があることが伺える。また、刻印が示す通り、BBRightのシェル幅にぴったり寸法を合わせたワンピース構造。また、よく見ると、スリーブの途中部分はテーパーがかかっていて、全面ピッタリでガシガシに圧入するというわけではないことも分かる。
背面はこの様に圧入時にNon Drive Sideから挿入していくことを示すマーキングもあり、このことから、写真の下側がNDS、上側がDSになることが分かる。
NDS側からの眺め。 外周部にはリップがあることで、勢い余って本来の位置以上に圧入されないようにしてある。 ベアリングは前述の通り6806-2RSを使用。 ということは、日本製の同規格品を国内通販等でも調達可能。 また、左右のベアリング間には前述のインナースリーブがあるのも確認でき、これによってインナーレースの軸方向に対するズレを抑えることが出来る。
重さはBBモジュール単体で110g。
加えてダストシールとウェーブワッシャー、スペーサー周りが約9gなので、トータル約119g。 比較対象としてのFSA B3155は約79gだったので、差分は、約40gのプラス。 また、方式は違えど、ShimanoのSM-BB9000とかが公称値65g程度であることも踏まえると、軽くはないが、BB周りのトラブルが減る、あるいは無くなる利便性(現段階では可能性だが)を考慮すれば、許容できる程度の差ではないかと考える。
というわけで、長くなりすぎたこともあるが、圧入工程やベアリング交換、異音問題は本当に無視できるのかどうかについては、今後の記事で記していきたい。
※2016年1月追記:インストール作業については別記事にて掲載しました。興味があればこちらから
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