※2017/07現在の記事を別記事にしました。以下は2016年2月段階での昔話と思ってお読み下さい。この記事はCervelo S3フレームおよび30mm軸クランクの組み合わせに対応するBBを導入する経緯と、それに伴う調査・考察を、同製品の紹介記事とは分割して加筆・修正した。 内容は前半が経緯で、後半がBBRightでの24mm系クランク対応BB製品のまとめ。自身の選択製品は別記事で。
BBRight対応BBモジュールの動向調査
#以下の調査経緯は2015年初頭の状況に基づいているが、状況の変化等については気づいたものから内容のアップデートを図っている。また、厳密な意味においてShimano以外のスピンドル軸径は24mmではないが、3大コンポーネントメーカー純正の軸径を指す言葉として24mm系という言葉を使用しているので留意されたい。
Cervelo S3を組むにあたっての懸案事項のひとつが、BBの規格が圧入タイプのBBRightであることから来る、乗り出し後のメンテナンス全般のあり方や、もしかしたら異音発生問題に悩まされるのではないかという、漠然とした不安要素であった。 これに対して、どう対処しようかということと、今回は既に別途30mm軸クランクを調達済みな一方、フレームセットに付いてきたB3155を使う気になれなかったことから、それを前提とした選択をする必要もあった。
そこで、BBRightかつ30mm軸クランク対応のBBモジュールでなにか良いものは無いかとWebを彷徨いつつ、異音問題ではとりわけ事例の多いBB30/PF30対応フレームのユーザーの中ではどのような選択がなされているかも参考要素になると考え、これらについても調べていった。
BBRight対応製品と言うと、日本国内の流通事情的に入手しやすいSuginoのBR-IDS24やRotorのPress Fit 4624/4630が最初の候補となるかと思うが、前者2つは24mmクランク使用の為のConverterであり、それを使わない時点で選択肢から外れることと、これらのインストールユーザの中にも、異音問題に直面してしまった方や、ひどい場合には圧入されているはずのベアリングカップが抜けてくる※1なんて話もチラホラと見かけたりして、方式的にも決定打としては今ひとつであり、ひとまずナシに。
※1 カップが抜けてくる現象は、インストールされたBB部の横寸法に対して、クランクのインストールや軸長に対する玉当たりが適切に調整されていない≒抜けるだけの遊びがある、ということも原因の一つの様な気がする。 故に30mm軸系BBやクランクには、その調節用スペーサーやウェーブワッシャー等が多種多数付属しており、プリロードアジャスターも含めたそれらの組み合わせで適切なガタ取りを行っているのではないかと考える。 もちろん圧入が緩すぎるのもどうかと思うし、24mmで割とその辺が楽なはずのHollowtechクランクでそれが起こるのもなんだかという感じ。 また、ペダリングの力によってこじられるベアリングとそのカップの圧入差し込み方向の深さは、左右結合しない多くのPressfitタイプのそれにおいて、その力のかかり方の割には、個人的に樹脂で良いのかとか差し込みが浅すぎるような気もしつつ、多くのメーカーがそうなので、設計的には問題ないのかなとも思ったりやっぱり煮え切らず。
他に国内取扱の多そうなものとしては、TNIやMortop、Ceramicspeed等、つまりはトライスポーツ取り扱いの製品群があるかと思うが、回転性能向上を謳うものは数あれど、異音関連についてはこれと言ったセールスポイントも伺えず、これらも棚上げ。
次に、英語圏を主とした海外に目を向ければ、30mm軸クランク及びそれ用の各種BB規格の総本山と言っても良い北米市場に於いて、回転系パーツメーカーとしては至高の存在と言えるChris King※2、そしてSRAMを始めとする、北米拠点のメーカーやオンラインショップからリリースされているBBRightと組付け互換性のある事が多いPF30規格品を筆頭に、BBRight専用設計品を含めた各種のBBモジュールがリリースされており、これらの中から利用可能なものを使っているという報告がCerveloのユーザーフォーラムを始めとしたオンラインコミュニティ上で散見される。 ただそれらの多くは単発的な個人ユーザーの書き込みが主体となる為、それだけでは決め手に弱く、もう少しサンプル数や詳細がほしいと考え、これまたこの時点でははっきりせず。
※2 Chris KingのものはPF30規格で、Cerveloのユーザーフォーラム等でBBRightフレームに組み付けている事例があることから話を取り上げたが、メーカー公式の対応アナウンスはないので注意。扱いとしてはFSA B3155と同じ考え方で、あくまで「利用可能だから」的なものに留まるし、もちろん組付けは可能だろうが、高品質で名高いChris Kingの製品と言えど、BBRight専用設計でない以上、不安はつきまとう。
他の海外勢では、BBRight対応24mm系Converterをリリースしている台湾のWishboneの話が聞こえてきたが、構造的にはこれまでに名の挙がった他社製品と大差無い様に見えることと、主要3コンポーネントメーカーの主要なクランク規格(CampagnoloのUltra/Power Torqueも含む)へ個別対応しているのは特筆すべきであるが、これもやはり30mm対応品は無いので検討対象から外れた。
圧入系BBモジュールの選択基準
……まぁ、決め手がないのも困るので、BB30系における対策事例として有効扱いされているものから他にヒントを得られないか探ってみると、最適解に近い形で言われているのが、スレッド付き金属スリーブを圧入※3した後、従来のスレッド式BBを使う方法や、PraxisworksのConverterの様な、左右から金属製スレッド付きスリーブの付いたベアリングカップを一部圧入しつつ、締め込んで一体化、かつ締め込み時にその結合部が外に広がっていくことによって、フレーム側との固定状態を強めてセットするという独自方式が、評価の高いものに見受けられた。
※3 フレーム側シェルにダメージを与える可能性から、日本国内では嫌がるユーザも多いが、低~中強度の接着固定力を持つLoctite等のスレッドロッカーを併用して行う圧入インストール作業は、BB30及びPF30および類似系規格のフレームにおいて、異音問題解決の為の最後の手段としてよく取り上げられており、選択肢としては軽視できないと考える。ただ、一旦固定してしまうと、脱着にリスクを伴う可能性が悩みどころか。
これらの方式の評価が高い理由の共通キーワードになりそうなポイントは、
・スリーブやカップは樹脂製のものよりも、金属製の方が内側のベアリングに影響を与えない様にしつつ、外側のBBシェルとのより強固な固定と、軸受けとしての安定化を目指せているように思える。 私感としても、評価の高い製品は金属製が多い印象がある。
・左右ベアリングが同じ土台に対して固定されるBB30用スリーブやスレッドアダプタは言うに及ばず、左右カップを結合して一体化を図ろうとしている方式の方が、軸受としての精度や安定性向上、ひいては異音の発生しづらさに寄与しているように思える。また、これを実現するためには、BBRightのシェル幅である79mmに合わせた専用設計でなければならないのではないかとも思えた。
の2点で、出来れば両立しているのが望ましいと考えた。
よって、もし同様の考え方に基づいたBBRight専用設計かつ30mm軸クランク用のBBモジュールがあれば……と、更に調査を進めた。
そこに、これまでとちょっと違うコンセプトのものとして、米国Wheels Manufacturing inc.(以下Wheels MFG)の製品で、軸線方向以外からのストレスにも強く、そのことからヘッドセット用途ではよく使用されているAngular Contact Bearing = ACBを採用、しかもそれはEnduro製で、ベアリングカップも金属製というPF30タイプの製品を見つけたが、これもBBRight専用設計ではない為、ベアリング側のアイデアは興味深いものの、選択に至るほどの根拠にはやや足りない感覚があり、これもまた候補からは外れることとなり、更にNetの海を流離っていくことに。
その結果辿り着いたのが、BBInfinite社のBBモジュールであった。詳細は別記事で述べるが、大筋としては、これまで取り上げてきたポイントを抑えた構造でありつつ、30mm軸クランク対応ということで、正にそれ、という感じであった。
主要24mm系BBRight対応製品とオススメ
そんなこんなで長々と調査と考察作業を重ねた結果の副産物として、自分が使うのは30mm軸対応BBなのに、結構な数の24mm系対応BBの情報が意図せず集まってしまった為、BBRight専用設計もしくは対応表記のある24mm系クランク用コンバータ・BBモジュールをリリースしている各社へのリンクをまとめ、見に来られた方の参考になればと思い、以下に記すこととした。
Sugino BR-IDS24
http://www.suginoltd.co.jp/products/bb/converter.html
Rotor Press Fit 4624 BBRight Road(国内代理店ダイアテックプロダクツのサイト)
http://www.diatechproducts.com/rotor/pressfit4624_bbright.html
TNI/Mortop/Ceramicspeed(国内代理店トライスポーツのサイト)
http://www.trisports.jp/
台湾Wishbone社BBRight対応製品(主要コンポーネントメーカー製各種24mm系クランクに対応)
http://www.wishbonetw.com/pro_2.asp?cate=119&id=119
米国Wheels Manufacturing inc. BBRight対応製品ページ(24/30mm軸製品混在)
http://wheelsmfg.com/bottom-brackets/bbright/bbright-out-bottom-brackets.html
前節の本文内で触れた様に、同社の30mm軸クランク対応品はわりと一般的なPressfitタイプの為に候補外となったが、24mm系クランク対応品であるOutboard BBシリーズはBBRight専用品の上、左右の金属製BBカップから続くスリーブにスレッドが切られていて、この部分が重なりつつ締め込まれることで左右結合という方式になっている。また、同社のPF30タイプで見られた、Enduro製のACBやセラミック等のベアリングバリエーションもあり、こちらも魅力的。 この、両サイドのカップが最終的に一体化する点は、残念ながらBBRight対応のないPraxisworksのBB30用24mm軸コンバータと似ていて良いと思うが、フレーム側BBシェルとの固定に関しては、BBシェルの素材に合わせたグリスやコンパウンドを塗布した上での圧入となっていて、圧入側に関しては、グリスとOリングというSugino製コンバータと同じ方式で、左右結合により抜けてくる心配はないものの、この仕様が異音解消にどの程度貢献するのかやや不透明。とは言え、前述のポイントを「ほぼ」満たしていることから、24mm系クランク使うなら、もしかして当たりの一つかもという可能性を感じている。
そして、最後に取り上げるのは、今回30mm軸クランク対応品を自分自身が導入したBBInfinite社の、その名もズバリBBRight Directfit Shimano/Campagnolo/SRAMという24mm系Converterで、30mm対応品と同じ構造の金属製ワンピースタイプなことから、別記事での同社製品の理屈に自分と同じく納得した人はこちらを検討するのもアリかと。 商品説明ページは以下のURLから。
http://www.bbinfinite.com/pages/road
ということで、24mm系クランク対応製品情報の中で、もし自分が選ぶとすれば、良さそうに思える上位2社の製品について、両者の特徴をざっと比較してみる。
メーカー | BBInfinite | Wheels MFG |
---|---|---|
製品名 | DIRECTFIT | Outboard BB |
基本構造 | ワンピースの金属スリーブによるモジュールをNDS側から圧入かつ非テーパー部に塗布したThread Lockerにて固定 | 左右分割された金属カップ/スリーブパートをPTFEコンパウンド塗布の上、NDS側を圧入、その後手挿入したDS側より左右スリーブパート同士をスレッドで締め込み固定※4 |
対応クランク | ・Shimano Hollowtech II ・Campagnolo Ultra Torque ・SRAM GXP(追加) |
・Shimano Hollowtech IIおよび FSA MegaExo、RaceFace EXI ・SRAM GXP |
必要/推奨工具 と 工具費用 |
Park Tool HHP-2(推奨) 及び BBINIFINITE MD-2*/SB-1* +約20,000円〜(HHP-2を海外通販で購入時) |
Wheels MFG PRESS-1または4 とPF30-OB-24および2437OB Drift (NDS側圧入用推奨:セットで約$78) 及び Park Tool BBT-29(国内実売価格3,000円前後) または FSA MEGAEVO 対応工具(DS側締め込み用)#工具費用総額は圧入工具の種類とトルクレンチ使用の選択肢で変動(後文章に補足あり) |
BB本体価格 | ・Steel/ABEC-7 $150 ・Ceramitech $205 #Steelタイプは当初のABEC-3から5、更に7へ、Ceramicタイプも独自仕様の”Ceramitech”へアップデート |
・Steel/ABEC-3 $74 ・ACB $99 ・Zero Ceramic/ABEC-5 $175 #ベアリングは全てEnduro製 |
※4:Wheels MFGのBB組付け方法については、2016年2月現在、PDFマニュアルが公開されており、去年の段階で公開済みだったPF30タイプのPDFを参考にして組み付け手順を予想した当記事内容と結構違っていたので当該部分記述を訂正した。申し訳ない。 んで、具体的な手順を確認してみると、PF30タイプの方で見えていたOリング的なものは見当たらず、BBシェルの素材に合わせたグリスやコンパウンド※5を接合部分に塗布した上で、まずNDS側のカップのみPressfit圧入工具で圧入し、DS側のカップを両カップに切られているスレッドが噛み始めるところまで「手で」押し込んだ後に、DS側カップを対応工具で規定トルク(35-50Nm)まで締め込んでいくというやや変則的な方法で説明されている。 なお、このマニュアルでは、スレッド締め込み時にもしかしたらと予想されうる左右カップの供回りには言及されていない為、当初記事に書いていた、カップが回らないように対応工具が2セット必要なのではないかという点については、記述を削除した。 参考にしたPDFマニュアルは以下のリンクから。 http://wheelsmfg.com/tech/PDF/BBRIGHT-OUT-SHIMANO-ABEC3-INSTRUCTIONS.pdf
※5:PFタイプのBBRightなら、シェル素材は実質的にカーボンのみになるかと思うので、この場合PTFE(テフロン)コンパウンドが推奨されているが、具体的製品名に言及はない。
以上の様に比較した上で、2016年2月時点での個人的見解を明かすと、Wheels MFGのモジュールにも惹かれるものはあるものの、やや不透明感が残ることから、BBRightフレームに24mm系というかコンポーネントメーカー各社の純正クランクを使うならば、30mmと同じくBBInfinite社のモジュールが最も理想に近いのかなという結論。
また、同社のDirectfitシリーズはBBRight以外のPF系規格への対応も幅広い為、Cervelo以外のPressfit系フレームを使っていて、24mm系クランクに対応した、”鳴らない”+”スムーズ”なBBモジュールを探している方にも検討の余地があるのではないかと考える。 ラインナップについては、前述のBBInfinite社へのリンクから辿るか、分類して書き出したものを30mm版の紹介記事で取り上げているので、非BBRight規格やMTBのフレームユーザーの方は興味があれば。
自分で組み付ける人への補足事項
以下は余計なお世話的な話ではある。これまでの内容はそれなりに調べてきたことを根拠とした上で、BBモジュール選択で悩んでいて見に来てくれた方にも検討の余地は充分あると思っているが、上記比較表内であえて触れた様に、オススメとしたBBInfiniteおよびWheels MFG両社のBBモジュールの導入の障壁となりうるのが、どちらも日本国内代理店がなく個人輸入となることと、それぞれの組付けに必要あるいは推奨される工具類のコストの高さである。
モジュールだけ自身で調達して、組付けはショップに任せる人にとってはあまり関係ない話ではあるが、海外からパーツを個人輸入するユーザーには、自身で組み付ける「DIY血中濃度」が高い方も多いと思われるので、このあたりのお話を補足事項として取り上げたい。
まず、別途用意するのは圧入工具だけでよいBBInfinite BBモジュールについてだが、Pressfit用圧入工具は、各社から多種多様のものが価格バリエーションも含めて市場に存在しているし、条件によってはホームセンター等の資材コーナーにて現物合わせで安価に自作する事例もあるが、作業のしやすさやモジュール付属の補助工具とのマッチングを含めた安心感を考慮すると、BBInfiniteが推奨しているHHP-2は高いなりの理由がやはりあると考えている。 とは言え、もしかすると一度しか使わないかもしれない工具に高額の予算を充てるのはどうかというのもあるし、ましてや他人にホイホイと勧められるものでもないという点は気になり続けている。
一方、Wheels MFG Outboard BBモジュールでは圧入工具の他に、別途カップを締め込む工具を購入しなければならない。 これについては、Park ToolのBBT-29を選ぶと、Wheels MFG BB用途で使用する48.5mmのFSA MEGAEVO互換の外径用と、SM-BB9000/SM-BB93互換の39mm外径用の両頭タイプになっているので、小径化したDura Ace 9000系以降のShimano BB用工具と兼用出来るから、これからも何度か出番があるんじゃないかと納得することも出来なくもない。 尚、検索時にはMEGAEVOと名前が似ているが、44mm径で同じFSAのMegaExo対応工具と勘違いしない様に注意が必要。 BB自体がMegaExoクランクにも対応している為、商品紹介にその記述があるので紛らわしいが、混乱の元。
トルクレンチ対応を考えなければ、金額的にはBBT-29を買うのが最安で、国内実売価格で3,000円前後。 ただし、本来の目的である異音発生防止やその他安全性を考えれば、トルク管理するほうが望ましい訳で、その場合12.7sq(1/2″)対応のFSA MEGAEVO BB Cupソケットにするプランになるのだが、ざっと見た感じ、米Amazon.comで2015年7月中旬現在約$51。 Pressfit用圧入工具やトルクレンチ本体まで新たに揃えるとなると、こちらも工具コストは結構な金額になる可能性がある。
結果、これらのモジュールは専用工具が必要な割に、何度も使わない工具代として1〜3万円程費用が別にかかる可能性があることを考えると、今までBB関連の工具を持っていなかった、あるいはShimano系BB用工具しか持っていない人にとっては、正直「高ぇ」訳で、モジュール本体の仕組みについては検討の価値があるものの、個人輸入にまつわる諸々と併せて、組付けを自分でやろうと思っている方にとっては、これらを含めたトータルの導入コストとリスクをどう捉えるかが、最終的な結論につながっていくのではないかと思われる為、熟考をお勧めしたい。
Be First to Comment