※2017/07現在の記事を別記事にしました。以下は2016年2月段階での昔話と思ってお読み下さい。日本語情報の少ないBBInfiniteのBBモジュールについて、詳細をお伝えできればと記事を書いてきているが、Bestとは言い切れない理由の一つに、国内代理店保証のない中で、出来れば使用したい「推奨」圧入工具HHP-2の価格の高さで二の足を踏む点があるかと思う。今回はコレ無しでやれるか、参考データを提示したい。
注意:以下の記事はBBInfinite社の公式推奨工具を使用しないことを勧めるものではなく、ある程度の自転車整備経験があり、特に圧入作業についての理解がある方を対象とした、やや”Dark Side”な情報提供を行うものです。 よって、内容及び実際に作業される場合は十分注意の上、作業結果の成否については全て自己責任であるということをお忘れなく。 くれぐれも目先の利点だけに釣られて無理をされないように。
※また、読む順番は強制しないが、BBInifinite社製BBモジュール自体の開封記事や、自身で行ったHHP-2を使用したインストール時のレポート記事も、併せてご覧になって頂いた方がわかりやすくなると思う。 例によって前振りが長い気もするので、さっさと要点だけ読めればいいという方は、10段落下ほどまで飛ばしてお読みいただきたい。
前フリと謝辞
タイトルは、そのBGMとしての用法はともかく、ギネスに残るPink Floydの超ロングセラーアルバムから。当方のSNSアイコンで想起される様な「Force」の方ではない。それについても何時か語るとは思うが……。
閑話休題。
今更ながらではあるが、当サイトの人気記事はやはりBBネタで、追加更新作業を2016年になって復活してからもボチボチとアクセスが有り、何かバックグラウンドがあるわけでもないNon-Competitiveなおっさんの与太話にかくも多数のアクセスを戴き、大変ありがたいことだと思っている。 改めて感謝。
とは言え、ここに来てもらえるのも、圧倒的にBBRight周りに関する日本語情報が少ないことやPressfit系規格にまつわる情報収集へのニーズがそこそこあることに起因しているかと思う。 特にBBRightについては、実質Cerveloのみの採用規格なので情報が少なめなのも致し方無いとは思うが、少しでも理解が進む様情報提供・共有が出来れば幸いだと考え、今後もBBネタを追加していく予定である。
BBInfinite社の近況と、HHP-2という障壁
既に過去記事にも、状況変化は極力反映させるべくアップデートを行ってきているが、BBInfinite社自体や製品にもこの1年で大きな前進があり、北米市場ニーズへの強化と思われるSRAM GXPおよび各BB規格のMTB版対応へのラインナップ拡張や、スティールベアリングに使用しているABECグレードを2段階(ABEC-3から7へ)アップしながらも、本体価格が僅かながら値下げとなった上、更には新規にホイールの取り扱いも開始、Webサイトもリニューアルする等、増々充実してきているのが見てとれる。
一方で引き続き日本国内代理店が無いことによる取り付けに関する自己責任度の高さと、それを踏まえたリスクヘッジの一環として、メーカー推奨ツールで作業したいと考えた場合に、対象であるParktoolのHHP-2の価格の高さが投資に見合うのかどうかという点に大きな引っ掛かりを感じる方は多いように思える。モジュールは良さそうな感じはするけど、工具代がなぁ……と言う気持ちは分かる。
自転車整備に広い範囲で何度も使えるレンチ類等ならば、少々高くても良い物ならば価値はあると個人的には思っているし、これについてはある程度同意していただけるのではないかと思うが、HHP-2は元々ヘッドセットの上下ワンを圧入するのが目的の「専用」工具であり、付属品もこれらに寸法を合わせたカップガイド530-2だけで、圧入作業時にはBBInfinite社のモジュールに付属しているツールと組み合わせて使う様になっているのだが、6806ベアリング交換時や他の規格のBBモジュールの圧入の際には、ベアリング径に合わせたアダプタ(例:ParktoolのBBT-30.3付属のもの等)を別途調達せねばならず、メンテナンスや組み付けの為に圧入作業を行う機会が複数回見込まれるわけでも無い限り、そのデカく重い工具は部屋のオブジェと化してしまう。
とは言えやはり、メーカー推奨ツールを使うことが作業のしやすさや安全性、製品トラブル時の保障につながる根拠となるのは言うまでもないし、別記事で取り上げた自身の圧入作業においても、HHP-2のがっしりさ故か、作業を躊躇するような無理矢理感もなく安心して終えることが出来たのも確かなので、同じ作業をするなら是非おすすめしたいところではあるが、「やっぱ高ぇし他に使う予定ねぇよ」と言われれば、仰るとおりである。
だとすれば、手持ちや他所からの調達が可能だったり、新たに購入するにしてもより安価なもので代用できないかと考えるのは至極真っ当なのだが、何でもいいかというとそういうわけでもないし、できれば安心安全に作業したいと思われるだろう。
HHP-2や圧入工具に求められるもの
その場合、HHP-2の代用品には少なくとも以下の3つのポイントが必要となる。
・モジュール付属のSB-XとMD-X(それぞれXの部分はモジュールの種類別に応じた番号が付いている。)をその圧入工具の軸に通すことが出来るか
流石にこれはそうじゃないと始まらない。
・SB-XとMD-Xが圧入工具側に接する面に対して、なるべく広く均等に力をかけられる頑丈なフラット面が工具側にあるか
圧入工具は、仕組みさえ解れば自作も可能な工具の一つで、実際Net上ではBB他自転車用の圧入作業を行う為に、ホームセンターで部材(シャフトとなる長ネジ(寸切りボルト)と抑えるためのワッシャー、レンチ類で締め込むための六角/長ナットのケースが多いかと思う)を調達して行っているケースも多数あるわけだが、仕組みは同じでも、専用品と大きく違ってくる可能性がココだと考える。
圧入作業自体、結構な力がかかっているわけで、圧入しようとしているものにできるだけ無駄なく均等に力がかかるほうが安定した作業が行えると考えているし、自作工具系では部材選択を間違える(特に想定されるよりも薄め(≒弱め)や細め、小さめのものはオススメできないし、サイズによっては、かかる力に対するネジ山の強度にも注意が必要かと思う。)と、極局所的に力がかかってしまい、作業に余計な力が必要になったり、工具やモジュールおよびベアリング、場合によってはフレーム側を変形・破損、更には作業によって怪我をする可能性さえあるので注意が必要。
特にBBシェルやベアリングのインナーレース単体(ズレる)とシール部(変形すると回転に影響が出る)への局所的な力は、絶対に避けなければならないし、痛めてしまったら終わりな為、「本当」に注意したいところである。
また、このポイントを満たせるということになると、HHP-2に限らず、各社から販売されている圧入工具の王道系の部品構成が大きくゴツいものの方が自然と評価が高くなることにも納得できる。
・ジャストとは行かなくても作業中にある程度のアライメントやセンタリングを確保でき、圧入の力をがっしり受け止める程度の軸の太さがあるか
これについてはひとつ前の要素と関連しているかと思うが、圧入自体の負荷と勘違いして、斜めになっていたりズレていたり、引っかかった状態なのに無理に圧力を加えれば、最悪モジュールどころかBBシェル他のフレームにダメージを与える可能性がある。
以上の様に、専用品ほどぴったりかっちりではないにしても、SB-XやMD-Xの内径に近い軸を持ち、軸や向きのズレを気にしにくい組み合わせに出来るものが理想かと思う。
また、圧入工具側の仕様においても、力をかける際に使うハンドル部なり締め込みに使用するレンチ類等の長さについては、長く大きい方が同じ力をより楽にかけやすい(必要以上の力みが不要)ことは言うまでもなく、とりわけ圧入作業経験の少ない人にとって、無理にこじらず出来る方が作業の安心感に繋がる点も無視できないかと思う。
純正ツールSB-1とMD-1の詳細データ
これらを踏まえた上で、モジュール付属の両ツールを、手持ちや調達予定の工具と現物合わせするのが早いとは思うが、そもそもモジュール買う前に工具をどうするかで悩む方が多いかと思われるので、購入前に調べられる参考要素として、手元にあるBBRight用30mm軸スピンドル対応モジュールに付属してきた、SB-1及びMD-1各ツールの実寸法計測結果を下記画像にて掲載する。 なお、冒頭でも述べたが、より正確に把握してもらう為にも、モジュール紹介記事やインストール記事を併せてご覧頂きたい。
後一点、最初にお断りしておきたいが、使用したノギスの精度がイマイチなことと、いずれもアメリカでの設計故、寸法ベースがインチでモノ考えてるっぽい数値もちらほらあるので、0.1mm単位以下の正確性は無いものとして見ていただきたい。 ただし、圧入工具側とのマッチング可否判断においては、寸分違わずピッタリ合わせるわけではないし、SB/MD共に少しは遊びがないと軸に通したり、作業中の位置移動が大変になるというのもあるので、十分根拠にできる数値であると思う。
まず片面分から。比較参考画像としての530-2はひとまず置いておき、上の写真でのSB-1とMD-1の上面が、作業使用時のDS側から見える面と理解してもらえるとよい。
左上のSB-1は樹脂製で、上面部の直径(O)は約50mm強あるが、HHP-2の場合だと、ここへの接触面となるスライド式プレスプレート下面(円状)が実寸で直径66mm強(≒2-5/8”?)あり、SB-1の上面は全て接する形となっている。 軸を通す中央の穴は約22mm強(I)あり、ここを通るHHP-2の六角軸の対角距離(二面幅ではないので注意)が実測21.4mmなので、それ前提の設計になっているのが分かる。
下のMD-1も樹脂製だが、直接的にモジュールを押して圧入していく役割を持っているのはこのツール。 BBモジュールNDS側の6806ベアリング内径30mmの穴に対して、中央の突出部(P)がハマり、モジュール全体に対するセンタリングの役目を果たすと共に、ほんの少し突起した周辺部(L)が主にアウターレースを押す形になることで、圧入時にインナーレースやシール部に強い力をかけることによって起こりうるベアリング破損を防ぐ構造となっている。
今度はNDS側から見える向きでの写真。
左上のSB-1の面は、(L)の外周部を除き17mm程掘ってあるが、ここの部分が圧入作業に全く関与しないからである。 このツールは、NDS側のMDが押していく圧入作業中、ずっと(L)の部分がDS側でフレーム側シェルの厚み部分に突っ張ることでその力を受け止めるのがその役割。 結果として、実は作業完了までモジュール本体に触れることはない。 ただし、HHP-2での作業も含めて注意しなければならないのは、突っ張り位置がずれたまま力をかけると、BBシェル他フレーム側にキズをつけたり、最悪破損の可能性もある為、時折正しい位置で突っ張れているかを確認しながらの作業を推奨したいが、圧入作業をNDS側から行っている為、反対側の死角となりやすい点にも留意したい。
下のMD-1は、外径が6806の42mmよりやや少なく、少し不安に感じるかもしれないが、ベアリングのアウターレースをこの面の反対側(ひとつ前の写真内)にある(L)が押さえるには十分な直径があり、無視できるレベルの差だと思う。 また、こちらの面と接触するHHP-2側のハンドル部下面(円状)も反対側のプレスプレート下面と同じく66mm強の直径がある為、こちらもSB-1と同じく全面接触で、作業の安定化を目指していることが分かる。 一方大きく違うのが内径で、実測16.7mmとSB-1とかなり違うが、これは通す場所が六角軸側ではなく、ハンドルが回転して前進する為のネジ切り部の呼び径15.5mm(実測。本来はもしかして5/8″?)に対して通す仕様になっているからで、当然ながらシャフト途中の境目に来ると、それ以上六角軸側へは前進しない。
以上を踏まえると、SB/MDの寸法構成は、組み合わせ推奨されるHHP-2を前提にしたものであるということが改めて納得できるかと思うが、逆にHHP-2以外の圧入工具が流用可能かどうかはこれらの寸法上マッチングした上で、同じ仕事を行えれば理屈的には可能ということになる。
代用工具とのマッチング要素まとめ
さて、数値が出てきた所で前述のポイントも交えたマッチング要素を以下に記す。
・SB/MD両ツールを通して組み合わせる為には、その圧入工具のねじ切りシャフト呼び径が16mm(=M16)以下でなければならないが、必要以上のズレ(センタリングおよびアライメント)防止やネジ山強度を考慮すると、細過ぎないほうが望ましい
・SBは内径がMDより大きいのと、圧入時の役割を考慮して、BBシェル外周厚み部分に安定して突っ張れる様、位置調整のしやすい状況が望ましい
・工具側からの圧入作業の力が、SB/MDそのものと、それぞれを介して接するBBシェルやモジュール及びベアリングに無駄なく伝わりかつ、局所的な負担をかけないことを考慮すると、SBの外径50.4mmと、MDの外径40.7mmに対して、出来れば直径40mm以上のフラット面にて、両ツールと接する構造が工具側にあることが望ましい
辺りとなるのではないかと考える。
以上の数値・ポイントを参考にして、使おうと考えている工具で行けそうかどうか探ってみるのはありかもしれないし、ホームセンターで組み合わせられそうな部材が思い浮かべば、それもまた……ではあるが、もう少し、具体的な代案はないのかと聞かれれば、実はある。それもParktoolに。
Install Without HHP-2, It’s……and More.
まずは、海外の自転車系ニュース&レビューサイトの一つとしてメジャーどころのBikerumor.comにおける、以下のBBInfiniteのレビュー記事をご覧頂きたい。要点は写真画像にあるので、英語力云々はガン無視で。
http://www.bikerumor.com/2015/03/04/review-bbinfinites-amazingly-smooth-one-piece-pressfit-bottom-bracket/
同レビュー記事では実際にPF30用30mmスピンドル軸モジュールをテスト用バイクにインストールしているのだが、圧入作業時の写真にParktoolのHHP-3を使用している風景が写っている。
HHP-3はHHP-2を簡素化したものと言ってよく、本来の目的もHHP-2と同じである。
もちろん、Bikerumorのレビューだからといってお墨付きが与えられるわけではないが、問題があれば注釈追加や記事そのものが取り下げられると考えるし、そうでない以上は参考要素にはなるかと思う。 また、Net上にはHHP-3のネジ切りシャフトの呼び径が5/8″(≒15.88mm)であるとの記述も散見されることや、仕様面でも、対応するヘッドセット用上下ワンのサイズはHHP-2と同じであることを考慮すると、条件的にも問題ないように見える。
HHP-3の入手については、Amazon.co.jpだと2016年3月現在で送料込み9,000円を切る価格で購入可能で、海外から個人輸入すれば、後1,000円程は安く買える。 これに対し、国内なら定価ベースで30,000円超え、実売価格でも20,000円を超え、更には海外通販でも20,000円切れればいいかなぁという感じのHHP-2と比較すれば大幅に安くなる。 もちろん1回しか使わないかもしれない専用工具代としては、依然として高価なことは否定しないが、HHP-2のそれよりは現実味が出てくるかと思う。
後、Parktoolと言えば、最近リリースされたBBP-1というボトムブラケット「専用」工具が有り、各BB規格に対応したプレスアダプタセットが付属していて、この中にBMX用のBB内径19mm対応のものも含まれていることから、シャフト径は大丈夫そうだが、SB-Xとの接触面はあまり大きくないように思えるのと、何より国内ではHHP-2の遥か上を行く定価42,876円で、MSRP(アメリカ国内でのメーカー希望小売価格に相当するもの)でも$210.95、実売価格で$190程度と、HHP-2が高いので代案をという今回の記事コンセプトからは外れる為除外した。
その他、他社製圧入工具の中で、HHP-2と同様のヘッドセットプレス用工具や、HHP-3と構造のよく似ているものならば、その代用可能性が高いかと思うし、「!」と思われた方は、前述の数値を参考にマッチングできそうか調べてみるのもよいだろう。
Calling All BBInfinite Users!
実はこのサイト、表面のコメントはないに等しいが、その内容のニッチさ加減の割にウラで結構質問のメールとかをいただく。 少しでも自分の知ってることが役に立つのであれば幸いであるというのは記事の随所で述べてきているとおりであり、メールだと一対一でよりフォーカスを絞ったやり取りとなるはずなので、文章長ぇよと自覚している自身にとっては、脱線しない分スマートかつ簡潔にできそうなもんだが、毎回の様に長い返信をしているあたり、壊滅的に文章力が無い気もしていて軽く鬱になる。
それはそれとして、一部調べる事のできる当サイト訪問へのキーワードを眺めていると、余計なお世話だったりするのかもしれないが、「あー、この部分について調べて回ってるのかなぁ」とか読めるキーワードが結構あったりするので、気がついたものについては、追加更新の予定を立てていたりするが、何せ早くはないので、とっとと早く知りたいことがあれば、遠慮せずにコンタクトを取って頂き、お役に立つことであれば伝えていきたいと考えているのでお気軽に。
また逆に、自分はこのツールでやった・出来たや、購入したモジュールに付属していたSB-X/MD-XはSB-1/MD-1とここの寸法や仕組みが違った等の情報があれば、お手数ではあるがコメントなり当サイトに貼ってある手段でコンタクトを取ってお寄せ頂けると幸いで、自身も更に勉強させていただきたいと考えているし、共有すべき事柄であれば、今後の更新に反映させて、情報精度を上げていきたいと考えている。
I Don’t Wanna See You in The Dark Side of The Moon…
……冒頭で掲げたアルバムのエンディング曲である”Eclipse”には、
There is no dark side in the moon, really. Matter of fact, it’s all dark. The only thing that makes it look light is the sun.
のような台詞が流れる。月の暗い所は、物事や人間の暗部・闇的な一面を比喩する時にも使われたりもするが、月の暗いところとか、本当はそんな区別など無く、全てが「暗い」のだ。ただ太陽の「光」があるだけ。的な意味だと自分は解釈している。
既存の手段に変わる方法を模索することは、DIY魂の観点からは賞賛されるべきことだし、そうしたチャレンジを行いクリアしていくヒトを自分はリスペクトしている。 ましてや自分もそれにチャレンジできることは楽しく、好きであるし、もし自分の持つアイデアや情報が誰かの役に立つのなら何よりではあると考えている。
だが、単なる夏休みの工作ならまだしも、自身の安全確保も含めた「公道」を走る車両への重要部品組み付けという前提もあるということについては、常に留意しておきたいという自戒を込めつつ、この”Dark Side”な記事を読まれた上でやってみようと思われている方にも、この旨最後にもう一度お願いしておきたい。
Be First to Comment