所謂エアロロードに分類されるS3だが、ハンドル周りもエアロ系でと愛用しているのが、ZippのVuka SprintハンドルバーとSL145ステム。 実はどちらも既にディスコンで、エアロであるが故の「クセ」もあって万人向けとは言えないと思うが、S3との組み合わせ例の一つとして見てもらえれば……。
“エアロ”コクピットを手に入れろ(昭和の自転車広告風)
ハンドルバーやステムの選択基準としては、何よりもまずサイズやジオメトリ的に自分のポジションを出せるかどうかが最初にありきで、その次に使い勝手や素材・剛性・振動吸収性等の性能面を考慮して選んでいくのが王道で、それらを軽視すると、タダの乗りにくい自転車になってしまうし、見た目や空力性能等は後回しで良いと考えている。 だがしかし、せっかくのSシリーズ。 エアロフレームが持つ特徴を活かしたセットアップを目指すなら、既にシートポストはエアロだし、前述の基本を重視しつつも、ハンドル周りのエアロ化も検討したい。
このトレンドは業界全体を見回しても同様で、Specialized/S-WorksのVenge ViASやCanyonのAeroad、GiantのPropel、TREKのMadone等のエアロデザインされたフレームに、デザイン上のマッチングや更なる空力性能向上を意識した専用ステムやハンドルバーが予め用意されているケースは珍しくなく、実際Cerveloでも、”All Carbon Handle Bar”がS5完成車の専用品としてリリースされており、現在は単品購入することも出来るようになっている。
ZIPP Vuka SprintとSL145組み合わせの経緯
2016年初頭までの記事を見られた方には、「あれ?ステムは3Tじゃ?」と思った人もいるかと思うが、元々S3導入以前よりエアロ的なデザインやマッシブな造形のパーツに憧れがあり、先に入手していたVuka Sprintを3Tのステムと組み合わせて使用してきていた為、実はこのハンドルバー、S3に併せて購入したものではない。
その後Vuka Sprintだけで使っていた状態で怪我→入院→リハビリ→S3で復帰という流れの中で、ステムも含めたリプレースを検討していたが、復帰当初しばらくは完全にヘタれきってしまった自身の肉体状況から、S3に対してのベストポジションが決まるまで時間がかかるだろうと考え新規購入は避け、手持ちのステム角(Arx Teamの±6°と±17°を保有)のバリエーション変更も含めた試行錯誤(S3乗り始めの頃のステムが3Tなのはこれが理由)を頻繁に行いつつ乗り倒していった結果、ある程度形が見えてきたところで、保留していたステムのリプレースが気になり始め、改めて物色し、晴れてコンビとなったのが、これらZIPPのVuka SprintハンドルバーとSL145ステム。
ホイールでは圧倒的な知名度と実績を誇るZIPPではあるが、ホイール以外の製品群については、現在同社が属しているSRAMグループ系商品の弱点とも言えるこれまでの国内販売価格設定や代理店の不安定さと流通体制等が今一つということもあって、実物に触れる機会が少なくやや選びにくいところもあるが、自分の場合は、流通在庫がたまたまあったのと、割引もそこそこある状態で購入できた為、縁はあったのかなという感じ。また、何故ディスコン品同士の組み合わせなのかという点については、その理由が前述の様に購入時期がS3導入以前からの段階的買い集めであったことも大きな理由。
そんな経緯を経て今に至るのが現在のセットアップ。結果的に同世代製品で揃ったことで、組み合わせもメーカー想定通りであるとともに、2011-13年頃のS-Works Venge及び同McLaren Edition(≒Mark Cavendish)とのセットアップでも頻繁に見られた「Z」の楕円ロゴが揃いとなり、良い感じにまとまっていると思える。
ZIPP Vuka Sprint Handle Bar
というわけで、実は先行導入品だったZIPP Vuka Sprintハンドルバー。 特徴は何と言っても上ハン部分がまんま「翼」なこと。 つまり、ステムでクランプする中央部分の丸パイプ形状からから上下に潰れて翼のように広がりつつ翼断面形へとモーフィングし、ブラケットに向かってカーブし始める辺りから再びパイプ形状へとモーフィングしていくシェイプになっている。 また、ドロップエンド側はブラケット取り付け位置に比べると、やや末広がりになっている。 なお、このブラケット取り付け部からエンドまでの形状について、Vuka Sprintは自分の購入したShort & Shallow(以下SS)の他にTraditional Bend(所謂丸ハン的な形状、以下TB)が存在していた為、バリエーションとしては2種類ある。 以下にZIPP本国サイトに残っているVuka Sprintのバリエーションとハンドルリーチやドロップ等の寸法が明記されたPDF文書へのリンクを記すが、ディスコン品につき消える可能性もある為、一応数値はテキストでも書いておく。 ハンドルリーチがSSは84.5mm、TBは87.5mmで、ドロップがSSは128mm、TBが130mmである。
http://zipp.com/_media/productdocs/BAR-DROP-DIAGRAMSS-TB.pdf
ハンドル幅のサイズバリエーションは380/400/420/440mmの4種類で、自分は420mmを選択しているが、ZIPPのハンドル幅表記ルールはドロップエンド側ではなく、ブラケット取り付け部側CtoCでの寸法である。 後はお約束の重量、カタログスペック上は420mmで225gだが、導入がかなり前の為、実測時のデータを失念してしまい恐縮だが、あと2~30g重かった記憶があるので、軽量化を求める選択肢としては向かないと思う。
その他特記事項としては、ブラケット取り付け部周辺にはカーボンパーツでよくみる滑り止め加工が施してあることや、エンド部の長さを短くしたい向きにカット用のラインが付いていること、ハンドルをすっぽり収納出来る黒地のポーチや展示用の装飾品が付属している。 このポーチや装飾品については、これだけでは決め手にかけるものの、偽物も多く出回っていたVuka Sprintの正規品であることの証明の一つになるかと思う。
組み付けに関しては、前述の形状説明で書いた様にクランプ部は丸パイプ形状の為ステムは専用品である必要はなく、ブラケットから先の下ハン形状やその使い勝手は丸パイプのハンドルバーと一切変わりないが、上ハン部分が翼面形になっていることから、アクセサリー系のマウントに制限が出ることや、上ハンの持ち方や握り具合が丸パイプのそれと違う為、人によっては好みの差がありそうなことに加え、翼断面の空力性能を少しでも活かすならば、翼面上のZIPPロゴ手前の辺りまででバーテープを巻き終える様にした方が美観的には良いかと思うが、その場合上ハン時はクリア塗装のカーボンパーツ部を直接持つことになる為、高速巡航時に肘を上ハンに載せる様な簡易的なTTポジションをとりたい時等も含めて、この場所をサラサラした生地の服(長袖やアームカバー等)や汗ばんだ素肌、素手等で接触・保持しようとすると、派手に滑って非常に危険である点等、上ハン周りの使い勝手をどう評価するかという部分が、このハンドルバーの他、翼面形状を持った「エアロ」ハンドルバー全般に共通した、その人にとって選択肢となり得るかのポイントの一つであるように思える。
また、同じ観点でもう一つ忘れてはならないことがある。それぞれに合ったポジション追求において、ブラケット位置の調整と併せて、丸パイプ形状のハンドルであれば当たり前に行われている、ハンドルバーの送りやしゃくりには注意しなければならない。 送りやしゃくり自体はステム側のクランプに対して回転するだけなので、「エアロ」なハンドルバーでも可能だが、原則的に翼面部が地面と平行(一番空気抵抗が少ない)になるのはエンド部も地面と平行の時に限られる為、送ったりしゃくったりすると、翼面もそれに合わせて上向きや下向きになり、かえって空気抵抗が増大してしまい、「エアロ」を選んだ意味がなくなってしまう。 百歩譲って空気抵抗が増えるだけなら単なる笑い話で済むが、非常にハイスピードな状況下や、強い向かい風の際には、ハンドリングや車体安定性に悪影響を与える可能性さえある。
ステム一体型のハンドルバーでも一部言えることだが、この辺りを考慮すると、「エアロ」ハンドルバーを使用したい場合、その特性を活かす為には、一般的な丸パイプ形状のハンドルバーと比べて、ポジション調整の幅が極めて限定される点には購入前に充分吟味する必要がある。言い換えれば、自分のポジションが定まってない人はもちろん、自身の定まったポジションを実現するために、ブラケット位置やハンドルバーの送りしゃくりを変更する必要がある人にはあまり向いているとは言えない。また、ハンドル周りにアクセサリーを多用する人も同様かと思う。
その他特筆事項として、ケーブルのルーティングについては、ブラケット近辺に空いた2つの穴を利用し、翼面内部を通過してクランプ手前で下に抜ける形になっているが、さほど極端な曲がりやねじりが必要ではないこともあり、ケーブルを通すための苦労やケーブル引きに対する負荷増大等による大きな影響はない。
アクセサリー関連のマウントについては、上の写真内に有る様に、自身はFSAのハンドルバーであるK-Wingのオプション品として、わりと安価に販売されているFSA Control Centerを取り付けて利用することで対応しているが、クランプ部分が細めであれば、各社のマウントを利用可能だし、ステム及びステムキャップ周りに対してのマウントと併用すれば、なんとかなる範囲の話ではあるかと思う。
また、前述した様に、現在は後継品としてSL-70 Aeroがリリースされているが、Vuka SprintとSL-70 Aeroの違いとしては、特徴的な上ハン部分の翼の様なエアロシェイプはほぼ同じだが、SL-70 AeroはSSのみになっている点がまず挙げられる。 その他にも、、SL-70 Aeroはハンドルリーチが70mmとなっており、ドロップ寸法もSSは共に128mmだが、Vuka Sprintのみに存在したTBは130mmになっている等、フィッティング的な意味では3種類それぞれ別ものと言って良いぐらいの違いがある。 また、お約束の重量比較については、カタログスペック的にSL-70 Aeroの240gに対してVuka Sprintの方が15g程軽いが、製造個体の実測重量的にはほぼ同じと考えて良い程度の差でしか無いと思われる。
ZIPP SL145 Stem
一方ステムについては、SL145とその正常進化といえるSL Sprintの2種において、どちらもステム本体部の「塊」感が強い重戦車的な造形と、SRAM系(Quarq ELSAもそう)クランクでもお馴染みのExogram構造を採用している点に共通項があるが、SL145では丸い穴がフェイスプレートに空いており、それを囲むように装飾的なリングが装着されているのに対し、SL Sprintでは本体部へと繋がる流線型のフェイスプレートで穴なしになっており、フロントから見た印象は随分と違う。それを踏まえると、よりエアロにこだわるならSL Sprintの方がそれっぽい感じになるが、見た目のゴージャス感ではSL145もなかなかであると思っている。 また、標準ボルトはチタン、そしてお約束の重量は……
……重い……こちらもVuka Sprint同様、軽量化のための選択肢としてはない。
前述の様に、このステムについてもディスコンだが、直系といえるSL Sprintと、軽量化を図ったSL Speedの2種類が後継品としてリリースされており、SL Speedについては、2016年初夏にデリバリーが始まった新モデルで、カーボンベースのSLシリーズという意味では同グレードになるが、より一般的なシンプルデザインのステム形状をベースに、カーボンならではのなめらかな造形によって仕上げられたスリム・軽量タイプで、ステム角度も±6°(SL145/SL Sprintは±12°)という完全に別路線な作りになっているのと、先行していたSL Sprintがディスコンになったわけではないことから、ゴリゴリにマッチョなSL145/SL Sprintと、スリムな細マッチョのSL Speed的な多バリエーション化が目的であると思われ、非エアロなフレームへのマッチングや自ポジションとの兼ね合いでステム角を一般的な±6°にしたい向きにはこちらが選択肢かとも思える。 また、標準ボルトはSL 145がHex/チタンであったのに対し、後継品は規格がT25 Torxへと変更され、素材もSL Sprintはステンレス、SL Speedがチタンと、全て違う。
なお、面白いことにそれぞれのステム長バリエーションについては、SL145が80-130mm、SL Sprintが90-140mm、Sl Speedが70-120mmのそれぞれ10mm刻みと、カバーレンジに違いが有り、欧米人の体格を想定すれば、マッシブさを目指したSL Sprintの140mmの存在は納得だが、より軽量・汎用を狙ったSL Speedには70mmが存在しており興味深い。
以上、各製品の特徴と違いを述べてきたが、Vuka SprintとSL145は共にディスコン品とは言え、現行製品との共通項がある一方で内容的に古臭さがあるわけでもなく、性能・重量面等でも大きな差があるわけではないと考えているし、実用面的にもアンダー60kgの体重に大した出力も出せない自身にとって、剛性感は充分過ぎる上、振動吸収性や減衰特性に関しても、カーボンホイール+チューブラータイヤを常用していることや、スパカズのバーテープの影響も込みではあると思うが、流石カーボンという感じで、路面からの衝撃や振動の「角」を取ってくれる上、収まりも早いことから、下りや踏み込みが必要な場面でも安心して乗れると共に大変気に入っており、まだまだ愛用していきたいコンビである。
Spread Your Wings and Fly Away!
今回のタイトルは、1977年にリリースされたQueenのマスターピースアルバム「世界に捧ぐ」の中から、Mr. Quiet-manこと、John Deaconの曲、「永遠の翼」から。
このアルバム、どっちかというとQueenファンでなくとも割と知られている「We Will Rock You」や「We Are The Champions」の収録作品としての方が有名だし、John Deaconの曲として見た場合も「地獄へ道づれ」の方が圧倒的に有名なのだが、今回Vuka Sprintの特徴である、「翼」繋がりで選んだ「永遠の翼」を始めとして、他にも「It’s Late」や「My Melancholy Blues」等、良曲多し。ロンドンパンク全盛の当時から、埋もれるどころか現代まで歌い継がれることとなったオススメアルバム。 S3で踏み出せば、おっさんになった今でも気持ちは「羽根を広げてどこまでも飛んでいけ!」である。……いやまぁホントに飛ばれても困るが。
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