S3のクランク周りの定番と言えば、ここ数年のCerveloフレーム使用プロツアーチームや完成車でお馴染みのRotor 3Dおよびその派生シリーズだろう。別記事でも調達済みの30mm軸スピンドルクランクがあるので……と散々前フリはしていたのだが、実はRotorではなくコレ。
Rotor Powerも良かったが…
導入部にも書いた様に、パブリックイメージとしてのCervelo用クランクと言えば、Rotor 3Dシリーズが圧倒的で、事実上のCervelo純正品的な位置にあると言っていいのではないかと思う。 自分も他のフレームでなら使用経験があるが、サードパーティ系クランクセットとしては、入手のしやすさも含め、検討すべき選択肢の一つに挙げやすい良いものだと思う。 実際、今回の選定時期には3DシリーズをベースにしたRotor Powerシリーズが出始めた所で、パワーメーターも必要事項に入れていた自分としても当然の様に検討していたのだが、偶然安く入手できる機会があったことから、こちらにした次第で、こういうのも「縁」という奴かと思っている。
SRAM/QuarqのパワーメーターとBBRightへの対応
上の写真の様に今回購入したのは、SRAM/Quarqの独自デザインシリーズである、ELSA 10Rのチェーンリングなし/BCD110/BB30(およびPF30対応、つまり軸長が長い方のBB30スピンドル)/170mmモデル。 現在はシマノ純正4アームチェーンリングも取付可能なELSA RSも出ているが、こちらのELSA Rは旧来からの5アーム仕様なのと、SRAM RED等と同様の中空カーボン製クランクアーム(Exogram)を持つモデル。
2016年2月現在のQuarqパワーメーターラインアップとしては、実質的なSRAM純正パワーメーターと言えるRED22/eTap及び1x系クランクアームをそのままベースにしたものと、クランクアームを非ExogramカーボンにしたRiken R、同じくアルミに変更したRIKEN AL等の独自デザインシリーズがある他、Specialized S-WorksカーボンクランクおよびCannondale Hollowgramシリーズクランクに対応する交換用スパイダー(つまりパワーメーター部のみ)等で構成されている。また、クランク製品のスピンドル軸バリエーションはSRAM純正規格のGXPとBB30/PF30のほぼ2本立てで販売されている。
Cerveloユーザーにとって重要なBBRightへの適合については、ほとんどのモデルが対応しているが、最安価のRIKEN ALはBBRightに適合しないとの表示がある為、注意が必要。詳しくは以下のQuarqサイトで。
問題発生(読み間違い)と解決
さて、今回導入しているELSA 10RにはSRAM製チェーンリングをバンドルしたモデルもあるが、手持ちのRotor Q-RingsのNormalタイプを使う予定だったことも有り、クランクのみのタイプにしたのだが、実は一つ問題発生。
OCP-3固定タイプではないQ-Ringsのスパイダーとの接合部はチェーンリングボルトの嵌まる穴の内周部がぐるっと円周のラインになっている。 これに対し、ELSAのスパイダーはQロゴのあるバッテリケース部分は外側にオフセットされているので気にする必要はないものの、上の写真をよく見てもらうと判るが、スパイダー自体に本来のアーム部(穴のある部分)とは別の出っ張りがある。
この出っ張りは、BCD130用ではアクスル軸中心からチェーンリングボルト穴までの距離がより外側に離れる関係上、ボルト穴のラインを結んで出来る円周よりも内側に収まる為に干渉しないのだが、BCD110用では離れ具合が足りずに同円周上で重なってしまう為、結果としてBCD110ベースのELSA Rには、Q-RingsのOCP可変タイプ(Normal/Aero/XL)のアウターリングを取り付けることが出来ない。
一方で、この記事の後で掲載しているスパイダー裏の写真で見て取れる様に、実はインナーリングの付く裏側についてはキレイに円周シェイプされていることから、OCP可変タイプでも取付可能。 ということは、アウターリングがOCP-3固定タイプで、インナーリングが可変タイプの組み合わせならば使用可能になるのだが、いずれにせよ手持ちのモノは使えないと判った時点で却下となった。
※この読みが外れた真相は、購入前に画像検索等でELSA+Q-Ringsの組み付け例を散々確認したつもりになっていて、イケると思っていたものが、改めて組み付け例の写真をつぶさにチェックすると……付いてる奴は全部BCD130のELSAだったというオチ。
なお、未検証ながらRIDEAのチェーンリングなら、Aero Plate以外のモデルは内周部のシェイプが円周ではないのでイケそうな予感がするが、最終的なチェーンリングとの組み合わせ写真は、後ほど最下部にてご覧いただける。 その他の要素としては、スピンドル軸はもちろん30mmタイプで、スピンドル表面にはBB30とPF30それぞれのロゴマークが入っており、どちらにも対応することを示している。 その他、パッケージには写真でも見える様に、出荷時のパワーメータースロープ値を印字したラベルと、ペダル取り付け時に使用するワッシャーが付属する。
BBRightでのインストール方法
で、商品出荷時のスピンドル軸にはBBモジュール側との玉当たりを調整する為のプリロードアジャスター(実測6.5mm)と、5mm(実測は4.85mm……)と13mmのアルミ製スペーサー2種類が通っているのだが、BBRightで使用する場合は13mmアルミスペーサーをDS側で使用し、残りは抜き取った上で使用しない。
じゃあ玉当たりはどうするのかというと、プリロードアジャスターの代わりとしてNDS側にウェーブワッシャーを使用し、必要に応じてBBモジュールとの寸法差を吸収するための樹脂スペーサーと組み合わせることでその役目を置き換えるようになっている。 これについてはQuarqの公式資料PDF(但し、公式サイトからリンクを探すのは困難)に明記されているのだが、製品付属のマニュアル・ガイド類にはBBRight用の具体的記述がない為、意外と迷っている人も多い様だ。件のPDFはこちらから。
http://www.quarq.com/i/quarq_bbright.pdf
なお、自分のセットアップでは、別記事で取り上げているBBInfiniteのBBモジュールとの組み合わせにおいて、DS側で13mmスペーサー、NDS側にはウェーブワッシャーのみの組み合わせで左右ガタは出なかったが、ワッシャーの適切な変形度合いと回転の感じの当たりどころを試すために、0.5mmスペーサーを組み合わせてテストしている。無負荷状態での回転は参考要素にしか過ぎないものの、そこそこスムーズに廻る。興味があれば、BBInfinite BBモジュールのインストール記事にて動画リンクを張っているので参照されたい。
補足事項1:これらのウェーブワッシャーやスペーサーは、クランクの付属品ではなく、基本的にはBBモジュールに付属しているものなので注意が必要。 実際、S3フレームセット添付品のB3155や、別途購入したBBInifiniteのBBモジュールそれぞれにウェーブワッシャーと2枚のスペーサーが付属していたことから、今回はBBInfinite側の付属品を使用している。よって、もし紛失やリプレースが必要な場合は内径30mmの規格品を探すか、SRAMやFSA等のサービスパーツとして取り寄せが必要なのではないかと思う。
補足事項2:BBRightでのSRAM系30mmクランク取り付け時に、せっかくついてるプリロードアジャスターを外すという不思議さ加減は、Rotorの3D系クランクでは外さずに装着できるようになっていることで、更に誤解と混乱を生んでいる気がするのだが、あくまでBB30/PF30BBが最初にありきでの製品開発がなされているSRAM/Quarqに対し、ここ10年程のCerveloとRotorの蜜月関係を見る限り、3Dクランク自体が元々BBRight での運用も前提にして設計されたという経緯の違いだと考えれば納得できる話だと思うのだがどうだろうか。 とは言え、ウェーブワッシャーも充分楽にセットできるし、玉当たりがきちんと出来れば、どちらでも良い話だと考えている。
Quarqのケイデンス計測方法あれこれ
上の写真はパワーメーターとしての心臓部であるスパイダー部分を裏側から見たもの。 前述の様に、インナーリング側のシェイプはキレイな円周の為、Q-Rings取付可能。 それはさておき、よく見るとスパイダー最内周部には別途ケイデンスセンサーが埋め込まれており、このラインを通過するようにマグネットを設置する旨の指示が書いてある。ケイデンス用マグネットの設置にはBBの規格やフレームの構造に合わせて3段階の方法が用意されており、
- BBがGXP等のスレッド式の場合、右側カップにスペーサーとしてかませることが出来るリング型のマグネットホルダーを付ける方法(実質に24mm軸系専用だからか、当モデルには未付属)
- aの方法が使えない場合で、フレーム側BB下のケーブルガイドがネジ止め式ならば、そのネジにかませることが出来るステー付きマグネットホルダーを付ける方法(30mm軸用その1)
- bの方法も使えない場合は、混合型のエポキシ系と思われるパテをフレームの適切な場所に盛ってマグネットを直接付ける方法(最後の手段的。あんまり望ましくはない)
の様になっている。これらに必要なパーツや部材はスピンドル軸の規格に合わせて付属していて、チェーンリングボルト等の付属品と合わせて以下の様な感じ。
なお、自分のS3にはcの方法しかとれないが、美しいフレームにパテを盛るのもどうかという感じで、結局どれもパスした。 では、どうしたか。方法としては実は後2つほどある。
第4の方法としては、現在発売されているクランク製品型パワーメーターの多くに装備されている、加速度センサー等を応用してケイデンス計測機能を得るやり方で、最近はおまけ機能として付いているのをよく見るが、Quarq製品ではAxCADという名称で呼ばれており、2012年頃からの世代における内部装置的には対応可能であったものの、当初はソフトウエア的に対応しておらず、気温差による自動校正機能※がついた、新設計の4アームモデルであるELSA RSが先行して対応となったのを皮切りに、2014年8月のFirmware Update(ver.23)で、ELSA Rでも利用可能になった。 ただしアップデートの対象は、歴代のQuarq製パワーメータ全てというわけではなく、電池がCR2032使用で、かつ動作表示用のLEDがついたタイプに限定される(つまり設計世代の違いによる見分けポイントはこの2つの条件を満たしているかどうかである)為、CR2450を使用するCinqo/Saturnベースのものは対象外となる。
※この機能は当初ELSA RSの目玉機能の一つとして発表され、旧モデルに対するFirmwareアップデートによる対応は除外されていたが、2014年10月14日以降にQuarqから出荷されたELSA R/RIKEN/RED22/XX1モデルにも標準機能として追加された。ウチのは2014年6月出荷分なのでアウト……。
動作的には、Quarq側でマグネットを感知した場合は従来通り動作し、感知できない場合に加速度計を用いた計測方式へと自動的に切り替わる仕組みとなっている。 よって、元々マグネットでの計測をやっていて、Firmwareアップデート後に新方式に切り替えたい場合、マグネットを撤去する必要があるので注意。 いずれかの方法で計測が行われれば、ケイデンスデータはパワーデータと共にANT+で送信される為、同規格に対応したデバイスならば計測・記録可能である。 自分は現在Recon JETでそれぞれ受信して利用しているが、Garmin Edge 500やWahoo製ANT+ドングルを取り付けた30pin Dock Connector仕様の旧世代iPhone/iPad上のアプリでも受信可能であることを確認している。
なお、Firmwareのアップデート作業には純正アプリであるQalvinと、それを起動するデバイスに利用可能なANT+ドングル等の通信装置が必要だが、自分のところでは、前述の旧世代iOSデバイス+Wahoo製ドングルにて使用している。 Qalvin自体はPC/Mac/Androidにも対応している為、Wahoo製の様な「クセの少ない」ANT+ドングルが接続できる手段(実質的にUSB/Micro USBになるだろうが)があれば、他のプラットホームからも行える。ついでの話しながら、Wahoo製ANT+ドングルは、30pin→Lightningアダプタを経由することで、iPhone5以降の現行世代デバイスでも利用できるになっている。
フレーム側にマグネットが不要になるメリットは非常に高いが、実はデメリットも有る。この方法での計測は、マグネットによる計測に比べると、リアルタイムでのケイデンスデータ追従性は下がる為、その辺が気になる人もいるだろう。 そういう向きには未検証ながら第5の方法を紹介する。
その方法とは、仕組み的にQuarqのネタ元とも言うべき、SRMパワーメーターでのケイデンス計測用マグネットをチェーンキャッチャーの先端に付けられるようにした、K-EdgeのK13-602を流用するもの。 製品にはSRMのロゴが付いていることもあって、公式にQuarq(にも)対応とはどこにも書いていないのだが、製品写真を見てもらうと解る様に、マグネット部は脱着及び位置調整が出来るようになっていて、マニュアルにはBB軸中心から21~51mmの任意の距離で位置調整可能との記述がある。 これに対して、前述のC案でのパテ盛りでのマグネット位置決めについてのQuarqのマニュアル上での指示は、BB軸中心から30mmとなっていることから、運用可能であると考えている。
では、何故この方法をとっていないかというと、普段走行中にそこまで細かくケイデンスを見ていないことに加え、ちょっと引っかかるのがその価格。 K13-602の海外定価は$59.99、国内価格は税込み約8,000円。確かに仕上げはキレイだが、ノーマルタイプでも手頃な価格とは言えないK13チェーンキャッチャーの更に2~3倍の価格であり、うーんな感じ。 今後どこかで安く入手できる機会があれば試してみても良いかなというところではあるが、現状優先度は高くない。 とは言え、気になる方の為に以下にリンクを記す。
まず国内は、取り扱いブランドやアイテムに光るものがあり、個人的にはこっそり応援しているゼータトレーディングの商品ページから(但しK13-602の商品写真が違う気がするのがやや残念ではあるが、商品説明は間違っていないので取り扱いがあるだろう。)
http://www.zetatrading.jp/product/K-Edge.html
次にK-Edge本家Aceco Sport Groupの商品ページと、流用可能そうな根拠となっているマニュアルPDFはそれぞれこちらから。
https://www.acecosportgroup.com/docs/K13-602.pdf
※ここいらのIT的な側面についての話や動作確認状況、そしてケイデンス計測方法の違いによるリアルタイム追従性の検証動画等については、いずれまとめた上で別途記事にしたいと考えている。
「殴る」インストール
さて、ケイデンスマグネットの小ネタはこれぐらいにしておき、本体の話に戻って行きたいが、これまでのクランクアームが写っている写真を見ていて、違和感を感じた人はいるだろうか。 日本国内においては一般的に最も目にするであろうShimano Hollowtech 2クランクの構造や分解整備を見慣れていると、スピンドル軸はDS側についているものだという感が強いかと思う。また、Campagnolo/FulcrumのUltra Torqueを知っている人ならば左右分割もあることを知っているかと思うが、このQuarqのBB30モデルはそのどちらでもなく、スピンドル軸はNDS側についている。
よって、組み付け手順もNDS側を先にBBへ挿入していき、DS側に抜けてきたスピンドル軸に、スパイダー中央の10mmHEXネジをねじ込み、48~54Nmのトルクで締める&ゴムハンマー等でGentlyに叩いて整えるという流れとなる。シマノのやり方に慣れていると全く逆で面白い。
改めて思うが、BBモジュール・ベアリング周りでの作業を含め、BB30/PF30系規格は本当に「殴り」工程が多いなぁとしみじみ。 自分は自転車作業以外でも使うことがあることからと以前購入した、やや大ぶりのゴムハンマーを愛用しているが、こういう荒っぽい作業が、カーボン主体のデリケートな素材構成と変速数の多段化や電子化によって精密度が高まってきている最近のロードバイク組み立てでも平然と共存しているのが面白い。
重量と答え合わせとネタ振り(続く)
お約束のクランク重量はこんな感じ。 非パワーメーターな他社のクランクと比較して、CR2032バッテリーや基盤・センサー類を含めたアルミ製スパイダー部分は重量増要素でしか無いが、そこは軽さに一定のこだわりがあるSRAMのグループ傘下である故の恩恵か、REDでも使用している中空カーボン製のExogramクランクアームが功を奏し(確かに持った感じもアーム部は軽い)、パワーメーターが主役の製品としては充分な軽さではないかと思う。
いずれにせよ、重量ということであれば、組み合わせるチェーンリングやボルトの要素も大であるし、クランクとしての性能や、パワーメーター要素も含めた実運用上の状況等については、それぞれ別記事で取り上げていきたいと考えているが、現状の組み付け具合はこんな感じである。
上の写真の中で、チェーンリングボルトに沿う形で仮想円を描くと、Q-Ringsの内周側がスパイダーの出っ張りとモロに干渉するのが判ると思う。最終的に組み合わされたチェーンリングについては別記事で。ただ、一緒に写っているパーツを見て、何だこの組み合わせと思われる方もいるかもしれない。
「何だコレ」の方に食いついた方におかれては、一応日本語ベースでの記事や組み合わせ事例が少ない「変な」奴から優先的に記事にするつもりでやっているが、全体像や使用パーツの一覧に興味のある方は、このサイトのメニュー部分に”About My Cervelo S3”とした使用パーツリストのリンクを掲載しているので参照されたい。別記事に掲載したので参照されたい。
Be First to Comment